石焼き芋を作らねばならぬ。そう思った。ふかした芋はこれまで数多く食べた。だが外で売られている石焼き芋は一度しか食べたことがない。
子供の頃田舎ばかりに住んでいた。ある時引っ越した先は小さめの町だったが、それまで住んだところよりは街だった。そこには軽トラックで石焼き芋屋が回っていた。
ある日学校から帰ると無表情のかーちゃんが、石焼き芋買ったから食べ、という。ちゃぶ台の上に芋が1つ載っている。ワシの分だと言う。
「それすごく高くてなあ…あんなに高いとはなあ…」よほど驚いたのだろう。そういうかーちゃんの顔は表情がなく、そのまま金田一耕助の映画に出られそうなほど怖かった。それが売られている石焼き芋を食べた、最初で最後だった。外で売られている石焼き芋は買ってはならん、そうワシは心に刻んだ。
あれから30数年。ワシも大人である。そろそろ石焼き芋の壁は越えねばならぬであろう。しかし外で売られている石焼き芋は一般人の買うものではない(※個人の感想です)。ならば自分で焼かねばなるまい。
ネットで検索してみると、自宅で石焼き芋を作っている人は結構いる。しかし作り方はまちまちである。つまり、原則にさえ沿っていれば大外れはなさそうである。ではその原則とは何か。
日本いも類研究会のwebサイトによれば、石焼き芋が甘いのは、ゆっくりと時間をかけて加熱することで芋のでんぷんが麦芽糖へと変質するから、だそうである。芋の内部を70℃くらいの温度で長く熱することができるから石焼き芋は甘くなる。
早速夜中に河原へ石拾いに行ったのだが、砂利などあまり無いのだ(こういう時街中は不便)。
仕方なくホームセンターに行くと、砂利はある。ただし駐車場などに使う用らしく、10㎏単位でしか売ってない。そんなには要らん。
100均の店に行くと、こういうのなら置いている。
家に帰って鍋に入れてみる。
全然足らない。なべ底スカスカ。あと7~8袋は要る。石焼き芋が高価だから自分で焼こうというのに、砂利買いまくってどうする。
何か使えるものはないか。部屋の中を探していると良さそうなものが。
石焼きビビンバ用鍋。「石焼き」って言うのだからいけそうではないか。これでいこう。
次は芋である。近所のスーパーで売っていた「安納芋」。
店内チラシによると、甘い、らしい。これにしよう。
まず、コンロの上に石焼き鍋を置き、芋がくっつかないようにアルミホイルを敷く。
その上に洗った安納芋を置く。
ほかの鍋のふたを載せ、途中何度か芋を裏返しながら弱火で1時間ほど熱する。
焼けた。
箸でつまむと皮は硬いが下の中身はふにゃふにゃなのが良く分かる。
これは期待できそうである。
割る。
ねっとりした中身が現れる。ええ匂い。
柔らかくてそのままでは食べにくいのでスプーンですくって食す。
旨い。甘い。なめらか。柔らかい。これまで食ったサツマイモの中で間違いなく一番旨い。
「外で売ってるのと比べてどうか」、「芋の種類が良かっただけではないか」、そういうのはさっぱり分からんが、旨そうな芋を選んでじっくり加熱すればうまくなる、ことは分かった。
ワシはついにやったのだ。
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